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下請法改正(支払遅延等防止法):改正法案の概要・重要ポイントを詳しく解説!

#下請取引規制

2025.04.13

下請法(支払遅延等防止法)改正案について

 下請法(下請代金支払遅延等防止法)改正法案の国会提出が、令和7年3月11日に閣議決定され、現在会期中である通常国会において内閣提出法案(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案)として審議されることが予定されています。

 下請法の改正法が今国会で成立した場合、公布より1年を超えない日より改正法が施行されます。

 

 下請法の改正法案(法律の名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(本稿では「支払遅延等防止法」といいます。)に変更されます。)では、新たな禁止行為や規制の拡充、適用基準の追加に加え、用語も大きく変更されていますので、これらについて留意が必要です。

 

 本稿では、下請法(支払遅延等防止法)改正法案の重要ポイントや注意点について詳細に解説いたしますので、製造委託等の取引における法令遵守にお役立て頂ければ幸いです。

 下請事業者におかれましては、知らずに禁止行為を受け容れてしまうことがないよう、改正法案に対する理解を深めて頂ければと存じます。

改正法案の概要・重要ポイント

用語の変更

 改正法では、用語が大きく変更されており、改正法の内容を把握する前提として、変更される用語について整理しておく必要があります。

 下請法で使用されていた用語は、以下のとおり変更されます。

 

【法の題名】

 法律の題名(名称)が「下請代金支払遅延等防止法」から、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更されます。

 「下請」の名称はなくなってしまいますので、今後も「下請法」と呼ばれるのかは不明です。本稿では、以下、便宜上、改正法を「支払遅延等防止法」といいます。

 

〔現行法〕下請代金支払遅延等防止法

〔改正法〕製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律

 

【用語】

 親事業者は「委託事業者」、また、下請事業者は「中小受託事業者」に変更されました。

 下請代金も「製造委託等代金」に変更されました。

 また、現行法では、下請法第3条に定められていた書面交付義務が、改正法(支払遅延等防止法)では、第4条に変更されました。

 そのため、実務的には、親事業者が交付義務を負っていた書面は「3条書面」と呼ばれていましたが、法改正により「4条書面」ということになります。

 本稿では、以下、改正法第4条で、委託事業者が交付義務を負う書面を、便宜的に「委託書面」と表記いたします。

 

 

〔現行法〕親事業者→  〔改正法〕委託事業者

〔現行法〕下請事業者→ 〔改正法〕中小受託事業者

〔現行法〕下請代金→  〔改正法〕製造委託等代金

※〔現行法〕書面交付義務は第3条に規定→〔改正法〕委託事項明示義務・書面交付義務として第4条に規定

 本稿では、これを踏まえ現行法下で「3条書面」と呼ばれていた書面を「委託書面」と表記します。

定義の変更

 

「製造委託」(改正法第2条1項)に、専ら物品等の製造に用いる木型等の製造の委託が追加されます。

 

【改正法第2条1項】

この法律で「製造委託」とは、事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくは専らこれらの製造に用いる金型、木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託することをいう。

 

適用基準の改正

 支払遅延等防止法では、法適用の基準として、従業員数による基準が新しく追加されます。

 これまで、下請法の適用基準に該当しなかった取引も新たに支払遅延等防止法の適用を受ける場合がありますので、ご注意ください。

 

 例えば、製造委託等の取引では、資本金1000万円以下であっても、従業員が300人を超える事業者は、委託事業者に該当する可能性があります。

 そのような事業者が、従業員300人以下の事業者に製造委託等を発注する場合には、委託事業者に該当し、支払遅延等防止法が適用されます。

 また、情報成果物作成委託・役務提供委託の取引では、資本金1000万円以下であっても、従業員が100人を超える事業者は、委託事業者に該当する可能性があります。

 

【新たに適用を受ける事業者の例】

(製造委託等)

  〔委託事業者〕「資本金1000万円以下、かつ、従業員300人超」

  〔受託事業者〕「資本金1000万円超、かつ、従業員300人以下」

(情報成果物作成委託・役務提供委託)

  〔委託事業者〕資本金問わず、「従業員100人超」

  〔受託事業者〕「資本金1000万円超、かつ、従業員100人以下」

 

【適用基準】

〔委託事業者〕→〔中小受託事業者〕

[製造委託等]

(資本金基準)

  ①資本金3億円超→資本金3億円以下(個人事業者含む)

  ②資本金1000万円超3億円以下→資本金1000万円以下(個人事業者含む)

(従業員数の基準)追加

  ③従業員300人超→従業員300人以下(個人事業者含む)

 

[情報成果物作成委託又は役務提供委託]

(資本金基準)

  ①資本金5000万円超→資本金5000万円以下(個人事業者含む)

  ②資本金5000万円以下→資本金1000万円以下(個人事業者含む)

(従業員数の基準)追加

  ③従業員100人超→従業員100人以下(個人事業者含む)

 

【支払遅延等防止法第2条8項本文】

この法律で「委託事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。

 

【支払遅延等防止法第2条8項5号】(新設)

常時使用する従業員の数が三百人を超える法人たる事業者(国及び政府契約の支払遅延防止法等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であって、常時使用する従業員の数が三百人以下の個人又は法人たる事業者に対し製造委託等をするもの(第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ次項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合を除く。)

 

【支払遅延等防止法第2条8項6号】(新設)

常時使用する従業員の数が百人を超える法人たる事業者(国及び政府契約の支払遅延防止法等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であって、常時使用する従業員の数が百人以下の個人又は法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの(第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ次項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)

 

【支払遅延等防止法第2条9項本文】

この法律で「中小受託事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。

 

【支払遅延等防止法第2条9項5号】(新設)

常時使用する従業員の数が三百人以下の個人又は法人たる事業者であって、前項第五号に規定する委託事業者から製造委託等をするもの

 

【支払遅延等防止法第2条9項6号】(新設)

常時使用する従業員の数が百人以下の個人又は法人たる事業者であって、前項第六号に規定する委託事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの

委託事業者の義務の改正

委託事項明示義務と書面交付義務

【現行法】

 下請事業者(改正法:中小受託事業者)から事前の承諾を得たときに限り、親事業者(改正法:委託事業者)が交付義務を負う3条書面(※委託書面)の交付方法につき、書面(紙)での交付に代えて、 電磁的方法により必要的記載事項の提供を行うことができるとされていました。

 

【改正法】

 中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、委託事業者は、製造委託等代金などの必要的記載事項(※委託事項)を、書面(※委託書面)又は電磁的方法により明示しなければならないものとされました(※委託事項明示義務)。(改正法第4条1項本文)

 ただし、委託事業者が、委託事項を電磁的方法により明示した場合でも、中小受託事業者より委託書面の交付を求められたときは、原則として、これを遅滞なく交付しなければならいものとされております(書面交付義務)。(改正法第4条2項本文)

委託事業者の禁止行為の改正

 委託事業者が中小受託事業者に対して製造委託等を行う際の禁止事項として、以下が追加されました。

手形交付の禁止

 2021年(令和3年)に閣議決定された5年後の手形・小切手廃止の方針に従って、製造委託等代金の支払において、手形を交付することが禁止とされました。(改正法第5条1項2号括弧書き)

報復措置禁止の拡充

【現行法】

 下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対し、親事業者による違反事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること(報復措置)が禁止されていました。

 

【改正法】

 公正取引委員会、中小企業庁長官に加え、事業所管官庁の主務大臣に対する違法事実の報告を理由とする委託事業者による報復措置も禁止とされました。(改正法第5条1項7号)

一方的代金額決定の禁止の新設

 中小受託事業者が費用変動等を理由に代金の協議を求めたにも拘わらず、委託事業者が当該協議に応じず又は必要な説明・情報提供を行わずに一方的に代金額を決定することが禁止とされました。

 

 改正の背景としては、令和7年3月の閣議決定において、中小企業が物価上昇を上回る賃上げを実現するためには、構造的な価格転嫁が重要であることが確認されました。
 我が国におけるサプライチェーン全体において適切な価格転嫁が行われる取引環境を整備することを目的として、上記の禁止事項が追加されることとなりました。

 

【支払遅延等防止法第5条2項本文】

 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあっては、第一号に掲げる行為を除く。)をすることによって、中小受託事業者の利益を害してはならない。

 

【支払遅延等防止法第5条2項4号】(新設)

 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。

遅延利息発生条件の拡大

【現行法】

 代金未払の場合、給付受領日から起算して60日を経過した日から年率14.6%の遅延利息が発生するものとされていました。

 

【改正法】

 代金未払の場合に加え、代金減額の場合が追加され、代金の額を減じた場合、代金減額日又は給付受領日から起算して60日を経過した日のいずれか遅い日から当該減額の支払がされる日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を支払わなければならないものとされました。(改正法第6条2項)

勧告場面の明確化

【現行法】

 給付の受領拒否等をした親事業者が勧告前に受領をした場合、支払遅延をした親事業者が勧告前に代金を支払った場合など、公正取引委員会が勧告ができるかどうかが規定上明確にされておりませんでした。

 

【改正法】

 勧告時点において委託事業者の行為が是正されていた場合においても、公正取引委員会が再発防止策などを勧告できるものとする規定が追加されました。(改正法第10条2項)

 

【支払遅延等防止法第10条2項】(新設)

公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為が既になくなっている場合においても、特に必要があると認めるときは、違反委託事業者に対し、当該行為が既になくなっている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

最後に

 本件では、下請法(支払遅延等防止法)改正の概要・重要ポイントについて詳細に説明をさせて頂きました。

 委託事業者が負う委託事項明示義務、書面交付義務及び書類作成保存義務の違反については、委託事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者に対し、50万円以下の罰金が科せられることとなりますので(改正法第14条)、業務委託の際には十分な注意が必要です。

 

 委託事業者におかれましては、下請法(支払遅延等防止法)の改正法による新たな規制につき社内での周知徹底を行って頂きたく存じます。

 また、中小受託事業者におかれましても、適用される取引が拡大され、中小受託事業者を保護するための規制内容が強化されておりますので、改正法の理解を深め、違反行為を甘受せず、これに直面した場合には速やかに専門家にご相談頂くことをおすすめいたします。

 

 当事務所では、公正取引委員会事務総局での職務経験を有し、下請法に関する豊富な実務経験を有する弁護士が適切なアドバイスをさせて頂くことが可能です。ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

 

 

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